看護師である X は、入院患者 A に風邪薬を支給すべきところ、 過失によって、致死量の劇薬を支給した。他方で、相前後して、別の看護師 Y も、 A に対して風邪薬と一緒に飲む予定の胃薬を支給すべきところ、過失によって、致死量の劇薬を支給した。 その後 A は、これらの事情に気がつかないまま、支給された両方の劇薬を一緒に飲み、死亡した。
なお、 X と Y の間に意思の連絡はなく、両者が支給した劇薬は全く同種・同量のものであり、どちらの劇薬の作用により A が死亡したのかは明らかでない。
X と Y の罪責を検討せよ。
X は、昭和56年1月15日の夜、1時間にわたり、三重県内の飯場において、 プラスチック製洗面器の底や革バンドで A の後頭部を多数回殴打するなどの暴行を加えたところ、 A は恐怖心による心理的圧迫等によって血圧を上昇させ、内因性高血圧性橋脳出血により意識喪失状態に陥った。 X は A を 1km 程離れた住宅街の駐車場まで自動車で運び、同所に放置して立ち去った。
その後、コンビニの帰りに偶然付近を通りかかったYは、駐車場に倒れている人影を見つけたためあわてて駆け寄ったところ、 以前から激しく恨んでいた A であることに気が付き、 「誰がやったのかは知らないが、この機に自分の腹いせに何発か殴っておこう」との思いから、 近くの民家の壁に立てかけてあった角材 (130cm×4cm×5cm) を用いて、 うつ伏せに倒れている A の頭部に振り下ろす形で数回殴打し立ち去った。
その後 A は、脳出血により死亡した。
調査の結果、直接の死因は X による暴行から生じた脳出血であり、 Y の暴行によりその傷害が拡大し、 幾分か死期が早められたことが分かった。
X 及び Y の罪責を検討せよ。
【参考判例】
最高裁平成2年11月20日第三小法廷決定
平成11年12月13日深夜0時頃、 X ほか5名は路上で口論となった初対面の A、B 両名に対して、 傷害の故意で、公園において約2時間にわたり、背後から羽交い絞めにして手拳で顔面や腹部を殴打し、 地面に押し倒して頭部や腹部を踏みつける等の暴行を間断なく続けた。 X らは知らなかったが、 B には高度の心臓疾患 (外観上は全く分からないが、 激しい運動程度の負荷で突然心臓機能の障害を起こして新増資に至るおそれのあるもの) があり、 B は上記暴行による外傷はなかったものの、心臓麻痺により死亡した。
同日午前2時過ぎ、 X らは X のマンション居室 (4階) に A を連れ込み、約45分間、 腕にタバコの火を押し付けたりドライバーで顔をこすったり、殴る蹴るの暴行を断続的に加えた。 A は公園、マンション居室内での合計3時間に及ぶ一連の暴行により、顔面挫傷、肋骨骨折等の傷害を負った。
午前3時頃、激しい音や振動に目を覚まし、苦情を言いに来た下の階の部屋の住人 T に X らが応対しているすきを見て、 A は X らを押しのけて上記マンション居室ドアから靴下履きのまま逃走し、マンションの階段を、 途中足を踏み外し転倒しながらも駆け下り、マンション敷地外へ脱出した。 X の仲間2名 (Y、Z) はAを追ってマンション入口まで降りてきたが、 A を見失ったため追跡を断念し X の居室へ戻った。
A は Y 、 Z がマンション入口まで追ってきた事実を認識していなかったが、 一刻も早くマンションから離れたいという一心で逃走を続けた。 逃走を開始してから約10分後、マンションから 800m 離れた高速道路に侵入したところ、 時速 100km で疾走してきたトラックに衝突され約 20m 飛ばされた後に後続車両に礫過され、同事故による脳挫傷で死亡した。
後の捜査で、血痕や足跡から、 A は、人気のない県道を一直線に進み、高速道路と立体交差する地点で、 トンネル脇の草木の茂る急斜面を登り、高さ 2、3m のフェンスを越えて高速道路に進入し、 1分間に5台程度の交通量であったかかる高速道路を、中央分離帯 (高さ1.5m) を超えて反対車線に進入し、 当該事故現場に到達していたことが明らかになった。
X の罪責を検討せよ (共犯関係は検討しなくてよい)。
【参考判例】
最高裁平成15年7月16日第二小法廷決定
最高裁昭和46年6月17日第一小法廷判決
X は、 A を港から車ごと海中に転落させ、事故に見せかけて殺害する計画を立てた。 平成23年12月1日午後10時頃、 A を拉致して港に運ぶため、 「用事があるからちょっと付いてきてくれ」と言って A を車に乗り込ませ、 ドアをロックしたところで多量のクロロホルムをしみ込ませたタオルを強引に鼻口部に押し当て、 A が昏睡して全く抵抗しなくなるまで吸引させた。
その後、 X は A を 2km 程離れた港に運び、海に対面して停車し、運転席に座らせてシートベルトを締めさせ、 ギアを D に入れて放置し、よってこれを海中に転落させた。
その後、 A の死亡が確認されたが、鑑定の結果、 A の死因は溺死ではなく、 クロロホルムの多量摂取による肺機能不全であることが判明した。
X の罪責を検討せよ。
【参考判例】
最高裁平成16年3月22日決定